★都心部から車締め出し
見直される交通社会
2000.9.7
読売新聞より
大気汚染を引き起こし、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出する「車社会」を見直す対策が各国で始まっている。公共交通を充実させ、都心部などから車を締め出すことで、車そのものを減らそうという試みだ。新たな理想「ニューディール」政策を掲げた英国の交通改革や我が国の現状を3回にわたって紹介する。
・ロンドン支局
渡辺覚
・社会部
永田弘道
観光客が集まる英国・オックスフォード市が昨年6月、車を市中心部から締め出す交通規制を断行した。世界最古の大学の街による新しい「挑戦」だ。
午前10時。ロンドンの北西約100km、人口14万の中心部は、交通規制の切り替えを迎える。しゃれた商店が並ぶコーンマーケット通りが歩行者専用道路になる。配達車の通行もシャットアウト。大学へ急ぐ学生の自転車も締め出す。
もっとも規制の厳しいコーンマーケット通りのほかにも、中心部を走るほとんどの主要道でへ日中、バスやタクシー以外車両通行禁止となる。「空気が変わったわ」。市民や観光客の会田で不便を嘆く声はほとんどなく、評判は極めていい。
スタートから1年余り。中心部の駐車台数は1日約700台減、バス乗客は9%増加した。規制導入後、人体に害のある大気中の微粒子浮遊量は、中心部で25%減少したという。「環境は大きく改善され、しかも中心部への入り込み客数は減っていない。思った通りの結果です」とオックスフォードシャー州交通政策担当官ノエル・ニューソン氏は強調する。
同士の交通問題は1970年代に深刻化した。このため市は、公害に大型駐車場を確保し、ここを拠点に市外からの入り込み客を中心部へバス輸送するパーク・アンド・ライド政策を導入。以来、交通規制の先進地として知られる。
「長く交通や環境を考えてきたオックスフォードならではのことです」と市道路交通委員長のジーン・フックスさんも言う。
商店主からは「周辺道路の混雑は一層激しさを増した。問題解決になっていない」「皆が規制に従ったのは、ガソリン高が理由だ」などの批判や皮肉も聞こえる。だが、平均所得が英国で最も高い市民のかんしんは、「静かで安全な暮らし」に集中。交通規制による環境改善が成功したのは、市民の支持を得る「土壌」があったからだ。
オックスフォードの挑戦は、98年に発表された英国の交通白書「交通のニューディール」の理念を具体化したものだ。環境問題やマイカーを運転できない老人らを重視し、「徒歩」「自転車」「公共交通」を優先する総合交通政策は、保守党政権時代の「規制緩和」で公共交通がすいたいするとともに、車公害が深刻化した反省として掲げられた。
英国の交通システムに詳しい新田保次・大阪大学大学院工学部助教授は「国の交通政策の目標を、<持続可能な交通システム>に一本化し、その実現のために地方に権限を移譲した画期的な政策」という。
その中心が「ローカルトランスポートプラン(地方交通計画)」だ。各自治体が5年間の交通戦略を策定。自主財源を確保するため、道路利用課金と事業所駐車場課金が法制化された。
都市中心部に車で進入する場合に一定の料金を徴収。企業の従業員専用駐車場にも課税する。
例えば、ロンドンの諮問機関の計画案では、中心部への車両には2003年から1台2.5ポンド(約400円)、2008年には7.5ポンド(約1200円)を徴収。駐車場課金も次第に強化するなどし、同年には中心部で50%近い交通量を削減できると予測している。
ドライバーにとっては厳しい内容だが、課金の利益は公共交通の充実に使われる予定で、こうした政策が今後、各都市に広がっていく可能性は高い。
新田助教授は「日本がこれから進もうとする規制緩和のデメリットを一歩先に経験している英国は、公共交通機関を運転できない市民の人権の一部とみなし、再構築しようとしている。我が国も道路建設重点の政策を見直すとともに、自治体への権限移譲で、それぞれの地域にあった交通政策を検討すべきだ」と話している。
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